5月28日、オープンソース(OSS)の可視化ツール「Grafana」を開発するGrafana Labsからご招待いただき、日本市場向け新機能説明会&EBC発表会を取材してきました。
Grafanaといえば、メトリクスやログ、トレースなどを可視化するオブザーバビリティツールとして知られています。今回の説明会では、GrafanaCON 2026で発表された新機能に加え、AI時代におけるGrafanaの戦略や、日本市場への展開についても紹介されました。
本記事では、説明会で語られた内容を整理しつつ、参加して私が考えたこと、感じたこともまとめます。
この記事の内容
- AI時代におけるGrafanaの戦略
- 日本市場への展開とEBC東京開設の背景
- GrafanaCON 2026で発表された主なアップデート
- Grafana Labsが重視するOSS文化とオープンなエコシステム
- AI時代にオブザーバビリティが果たす役割についての考察
Grafana Labs 日本市場向け新機能説明会&EBC発表会に参加しました!
しがないフリーランスライターの私のもとに、突然取材案内のメールが届きました。Grafana Labsの日本PR事務局からで、「Grafana Labs 日本市場向け新機能説明会&EBC発表会の取材をしませんか?」というもの。
新手の迷惑メールかなと思って調べてみましたが、どうやら本物っぽい……?取材経験が豊富なわけでもなく、エンジニアの端くれみたいな立ち位置なので、「なぜ私に……?」と正直かなり戸惑いました。しかも私、Grafanaについては「ダッシュボードでいろいろ可視化するツール」くらいの理解くらいしかないし。
とはいえ、公式からこのような形で直接連絡をいただける機会なんて、もしかしたら今後二度とないかも!と考え、思い切って参加してみることにしました。と、いうわけで!
2026年5月28日、Grafana Labsの日本市場向け新機能説明会&EBC発表会に参加してきました~~!!
今回の説明会は、次のような流れで進められました。
- Grafana Labsのグローバル戦略と日本市場へのコミットメントについて(Raj Dutt氏)
- GrafanaCON 2026で発表された新機能アップデートの紹介(山口氏)
- AI時代におけるGrafanaの戦略とGrafana Assistant/AI Observabilityの紹介(山口氏)
- Grafana 13、Loki、OpenTelemetryの主なアップデート(山口氏)
- 質疑応答
内容としては、AIを活用してオブザーバビリティを支援する「AI for Observability」と、AIエージェントやLLMの挙動を監視する「Observability for AI」の二軸が大きなテーマです。さらに、Grafana Assistant、AI Observability、Grafana 13、Loki、OpenTelemetryへの取り組みなど、かなり盛りだくさんの内容でした。
また、今回は新機能の紹介だけでなく、Grafana Labsが東京・銀座に開設したExecutive Briefing Center(EBC)についても紹介されました。EBCは、顧客やパートナーと対面で議論し、Grafanaの活用や導入について理解を深めるための場です。日本市場を重視するGrafana Labsの姿勢が伝わる発表だったように感じます。
AI時代におけるGrafanaの戦略――Raj Dutt氏の発表
最初に登壇したのは、Grafana Labsの共同創業者兼CEOであるRaj Dutt氏。

Raj氏は冒頭で、「現在のオブザーバビリティについて語るうえで、AIの存在は避けて通れない」と話しました。AIは開発者だけでなく、システムインテグレーターやオペレーターにも大きな変化をもたらしており、ソフトウェアやインフラの未来を変える存在になりつつあります。
そのうえで、Grafana LabsではAIによる変化を大きく2つの方向から捉えていると説明。
1つ目は、「AI for Observability」、オブザーバビリティのためにAIを活用する考え方です。AIによって、障害調査や分析、状況把握といった作業を支援し、人間の生産性を高めることを目指しています。
これまで熟練したエンジニアでなければ難しかった調査や判断も、AIのサポートによって、より短時間で行えるようになるかもしれません。Raj氏は、「AIによって人間がスーパーパワーを持つように活動できる」と表現していました。
もう1つが、「Observability for AI」、つまりAIやLLMそのものに対するオブザーバビリティです。LLMは非常に便利な一方で、ハルシネーションを起こしたり、事実とは異なる内容を出力したり、想定外のふるまいを見せたりすることがあります。Raj氏は、「AIやLLMには人間らしい側面があり、その不確実性こそが大きな課題になる」と説明していました。
この話、個人的にもとても印象に残りました。AIがシステム開発や運用の現場に入り込むほど、単に「AIを使えば便利になる」だけでは済まなくなります。AIが何を判断し、どのように動き、どこで問題が起きたのかを追える仕組みが必要になるからです。
Grafana Labsは、「AI for Observability」と「Observability for AI」の両輪に取り組むことで、AI時代におけるオブザーバビリティ基盤を作ろうとしているのだろうと感じました。
またRaj氏は、Grafana LabsがGartner Magic Quadrant for Observability Platformsでリーダーの位置づけを獲得したことにも触れていました。「DatadogやDynatraceといった強力な競合が存在するなかで、Grafana Labsはオープンソースを軸にした“ユニークな”立場と戦略を取ってきた」と説明しています。
実際、Grafana Labsのグローバルユーザー数は3,500万人を超えています。その大半は有料顧客ではなく、オープンソースソフトウェアのユーザーやコミュニティメンバーです。一方で、有料顧客は7,000社超にとどまっており、まずは開発者やユーザーに愛されるオープンソース技術を提供し、その後に収益化するというビジネスモデルを展開してきたことが語られました。
この「オープンソースを中心に据えた戦略」も、今回の説明会全体を通じて重要なテーマだったように感じます。Grafana Labsは、AI時代になったから急にオープンな姿勢を打ち出したのではなく、もともとOSSを軸に成長してきた企業です。その思想が、結果としてAI時代のオブザーバビリティとも強く結びついているように見えました。
日本市場への展開とEBC東京の開設
Grafana Labsにとって、日本市場はすでに大きな成長を見せている市場です。実際、日本におけるOSSユーザー数は5万人を超え、顧客数も100社を超えています。また、収益面でも過去2年間で5倍に成長しているとのこと。
Raj氏は日本市場での事業展開について、3つの柱を挙げていました。
- コミュニティ作り:Grafana Labsは、単に有料顧客を増やすだけでなく、OSSを使うユーザーや技術者のコミュニティを育てることを重視しています。コミュニティが育つことは、製品への信頼にもつながります。
- ダイレクトエンゲージメント:顧客、技術者、パートナーと直接向き合い、関係性を築いていく取り組みです。OSSを軸にしながらも、実際の導入や活用を進めるうえでは、直接のコミュニケーションが重要になるという考え方だと受け取りました。
- パートナー戦略:日本市場はオブザーバビリティ市場をSIerや戦略的パートナーがリードしており、海外ベンダーが日本市場に入る際には、この構造の捉え方が重要です。Grafana Labsは、日本独自の市場構造に根付かせる形で事業を広げようとしているように見えました。
こうした日本市場への取り組みの一環として開設されたのが、東京・銀座のExecutive Briefing Center、通称EBCです。(ビビりまくってEBC全景の写真を撮れなかったので、PRTimesでご確認ください)
(申し訳程度に、ビルの看板の写真だけは撮った)

今回開設された東京のEBCは、Grafana Labsにとって世界初のEBCとのことでした。今後はヨーロッパやアメリカにも展開していく予定だそうですが、その最初の場所として日本が選ばれた点は印象的です。
質疑応答では、「なぜ世界初のEBCを日本に設置したのか、またなぜ銀座だったのか」という質問も出ていましたが、これに対してRaj氏は、日本市場に参入するにあたっては「正しい参入の仕方」「正しい投資の仕方」が重要だと説明していました。特に日本では、Face to Faceでの関係構築が重要であり、そのために日本にEBCを設置したとのことです。
また、銀座を選んだ理由については、Raj氏自身が東京のファンであること、そして銀座が楽しく活気のある街であることを挙げていました。「Grafana Labsもまた、楽しく活力に満ちた企業であり、その雰囲気に合う場所として銀座を選んだ」とのことです。
技術系の企業拠点というと、丸の内や港区、渋谷などをイメージしがちですが、あえて銀座という選択をしているところにも、Grafana Labsらしさが出ているように感じます。単なる商談スペースではなく、顧客やパートナーと直接向き合い、関係性を築く場としてEBCを位置づけていることが伝わる発表でした。
GrafanaCON 2026で発表された主なアップデート――山口氏の発表
続いて、Grafana Japanのスタッフ・デベロッパー・アドボケイトである山口氏から、GrafanaCON 2026で発表された主なアップデートが紹介されました。

山口氏の発表では、AI関連機能からGrafana本体のアップデート、ログ基盤であるLoki、さらにOpenTelemetryへの取り組みまで、かなり幅広い内容が扱われていました。
全体を通じて印象的だったのは、単に「便利な新機能が増えました」という話ではなかったこと。GrafanaがAI時代のオブザーバビリティをどう支えようとしているのか、そしてOSSやオープン標準をどれほど重視しているのかが、機能紹介のなかにもはっきり表れていました。
Grafana Assistant
最初に紹介されたのが、Grafana内での作業を支援するLLMエージェント「Grafana Assistant」です。チャットボットのように質問に答えるだけでなく、障害発生時の原因調査や、ダッシュボード作成、クエリ作成なども支援します。
山口氏の説明で印象的だったのは、Grafana Assistantが単なる「便利なAI機能」ではなく、運用現場における調査や判断を支援する存在として位置づけられていたことです。
具体的に紹介された機能は次のとおりです。
- Investigations:問題が発生した際に、複数のAIエージェントを同時に動かして調査を進める機能
- ルール:エージェントに対して「やってよいこと/やってはいけないこと」をあらかじめ定める機能
- スキル:データベースやネットワークなど、特定分野の専門性をエージェントに持たせる機能
- コマンド:GrafanaやSlack、チケット管理ツールなど、外部リソースへの操作を支援する機能
- オートメーション:定期レポートの作成やインシデントの振り返りなど、決まった作業を自動化する機能
このあたりは、AIをただ導入するのではなく、チームの運用ルールや組織の文脈に合わせて使おうとしている点が面白いと感じました。システムのTelemetryだけでは分からない業務上の背景や組織固有の情報を、AIにどう渡すかまで考えられている点が興味深いです。

また、Grafana AssistantはGrafana Cloudだけでなく、Grafana OSSやGrafana Enterpriseのユーザーも利用できるようになるとの説明がありました。OSSユーザーも含めてAI機能を届けようとしている点にも、Grafanaらしさが出ているように感じます。
GCX
Grafana Assistantに関連する機能として、Grafana Cloudの公式CLIである「GCX」も紹介されました。
GCXは、Grafana Cloud内に保存されているTelemetryデータを取得するためのCLIです。Grafana AssistantがGrafana上でAIを活用する仕組みだとすれば、GCXはGrafanaの外部にあるAIツールからGrafanaのデータを扱いやすくするための仕組みだといえます。

たとえば、手元でCodexやClaude CodeのようなAIアシスタントを使っている場合、ソースコードとGrafana内のTelemetryデータを組み合わせて分析できます。これにより、どの処理でパフォーマンスの問題が起きているのか、アラートノイズをどう減らせるのか、Grafana Cloudの利用コストをどう最適化できるのかといった調査にも活用できる可能性があるというわけです。
個人的には、GCXは「Grafanaの中にAIを入れる」だけでなく、「AI側からGrafanaのデータを使えるようにする」ための機能として面白いと感じました。
AIアシスタントがコードや設定を扱うようになるほど、実際の運用データと結びつけた分析が重要になります。その意味でGCXは、GrafanaのTelemetryデータをAI時代の開発・運用フローに接続するための橋渡しのような存在に見えました。
AI Observability
Grafana Assistantが「オブザーバビリティのためにAIを使う(AI for Observability)」機能だとすれば、AI Observabilityは「AIそのものを観測する(Observability for AI)」ための機能です。
近年、AIエージェントやLLMを業務システムに組み込むケースが増えています。しかし、AIエージェントがどのように動き、どのツールを呼び出し、どれくらいのトークンを使い、どこで問題が起きたのかを把握するのは簡単ではありません。
AI Observabilityでは、こうしたAIエージェントの挙動を可視化し、分析できるようにします。

発表では、主に次のような機能が紹介されていました。
- インサイト:AIエージェントの利用状況やパフォーマンスを把握する
- 会話:会話セッションごとにツール呼び出しやトークン量を分析する
- エージェント:会話内容をもとにエージェントやシステムプロンプトの改善案を出す
- 評価:本番環境のエージェントを継続的に評価する
個人的には、このAI Observabilityこそ、AI時代のオブザーバビリティを象徴する機能だと感じました。
AIを業務に組み込むほど、「AIが何をしたのか」「なぜその判断に至ったのか」「品質は改善しているのか」を追跡する必要が出てきます。AIの活用が進むほど、AIそのものを観測する仕組みが重要になる。Grafana Labsは、そこをかなり明確に捉えているように思いました。
Grafana 13
Grafanaといえば、やはりダッシュボードツールとしての印象が強い方も多いと思います(というか私がまさにそう)。今回の発表では、Grafana 13の新機能として、ダッシュボードやチーム利用に関する機能が大きく強化されたことが紹介されました。
紹介された主な機能は次のとおりです。
- データソースと可視化パネルの拡充:対応するデータソースや可視化方法が増え、より多様なデータをGrafana上で表現しやすくなった
- Graphvizパネル:コンポーネント同士の関係性を図として表現できる新しい可視化パネル
- ゲージパネルのアップデート:既存のゲージパネルを、よりモダンで見やすいデザインに刷新
- アノテーション機能の改善:デプロイやイベントのタイミングを、ダッシュボード上でより分かりやすく表示できるように改善
- ダイナミックダッシュボード:タグやセクションを使って、必要な情報に切り替えやすくする機能
- ダッシュボードテンプレート:DORAメトリクス、USEメソッド、REDメソッド、Four Golden Signalsなど、定番の指標に合わせたダッシュボードを作りやすくする機能
- 保存済みクエリ:チームでよく使うクエリを保存・共有し、必要なメトリクスにすばやくアクセスできる機能
- インタラクティブラーニング:作業中の画面に応じたヘルプを表示し、その場で操作方法を学べる機能
- Git Sync:GrafanaのダッシュボードをGitで管理し、変更履歴やステージングから本番への反映を扱いやすくする機能
- Grafanaマーケットプレイス:データソースやプラグインなどを提供する開発者が、Grafanaのエコシステム上で収益化しやすくする仕組み

個人的に興味深かったのは、単に見た目や表現力が強化されたことよりも、チームでGrafanaを使いやすくするための機能が増えていた点です。
たとえば、ダッシュボードテンプレートでは、DORAメトリクス、USEメソッド、REDメソッド、Four Golden Signalsといった定番の指標に合わせたダッシュボードを作りやすくなります。テンプレートをもとにしながら、自社のシステムに合わせてクエリを調整すれば、チーム内で統一された見方をしやすくなります。
また、保存済みクエリによって、熟練したエンジニアが作ったクエリをチーム内で共有できます。新しく参加したメンバーでも、保存されたクエリを使うことで、必要なメトリクスにたどり着きやすくなりますね。
インタラクティブラーニングも、オンボーディングを意識した機能です。作業中の画面に応じたヘルプを表示できるため、ドキュメントを探しに行かなくても、その場で学習しながら操作できます。
このあたりからは、Grafanaが「個人がダッシュボードを作るツール」から、「組織で観測の文化を共有するための基盤」へ広がっていることが伝わってきました。
さらにGit Syncによって、ダッシュボードをGitで管理し、ステージングで確認してから本番に反映するような運用もしやすくなります。ダッシュボードもコードと同じように管理する流れが、より自然になっていくのだと思います。
Loki
LokiはOSSとして提供されているログ基盤で、Grafana Labsが開発をリードしています。今回の発表では、Loki最新版に向けた新しいアーキテクチャが紹介されました。
blogcard url=”https://grafana.com/ja/oss/loki/”
背景にあるのは、ログの量や種類が大きく変わってきていることです。従来のような非構造化ログだけでなく、JSONのように構造化されたログも増えています。ログの規模が大きくなり、検索や分析の仕方も変わるなかで、Lokiのアーキテクチャ自体を見直す必要が出てきたという説明でした。
新しいアーキテクチャでは、書き込み量が実データ量とほぼ等倍になり、スキャンするデータ量は20分の1、クエリ速度は10倍に向上したとのことです。しかも、これは手元のベンチマークではなく、Grafana Cloud上で実際に導入して得られたデータだと説明されていました。

ログはシステムの状態を知るための重要な手がかりですが、増えすぎると保存コストや検索性能が大きな課題になります。Lokiのアップデートは、そうした現実的な課題に対して、オブザーバビリティ基盤としてどう向き合うかを示すものだと感じました。
OpenTelemetryとオープンなエコシステム
OpenTelemetryは、メトリクス、ログ、トレースなどのTelemetryデータを収集するための標準的な仕組みです。山口氏は、Grafana LabsがOpenTelemetryに強くコミットしていることを紹介していました。
ここで特に印象的だったのは、Grafana Labsが自社独自の計装ライブラリを前面に出すのではなく、OpenTelemetryやPrometheusの公式ライブラリを使うように案内しているという点です。
一般的には、オブザーバビリティベンダーが自社サービスに最適化した独自ライブラリを提供します。しかし、Grafana LabsはOSSやオープン標準を重視する姿勢から、既存のエコシステムと連携する方針を取っています。
また、Grafana AlloyではOpenTelemetryやPrometheusの仕組みを活用し、Grafana BeylaではeBPF関連の技術をOpenTelemetryプロジェクトに寄贈しているとの説明もありました。AI Observability向けのSDKも、OpenTelemetryをベースにしているそうです。
この話からは、Grafana Labsが単にOSSを利用しているだけではなく、OSSやオープン標準のエコシステムそのものに貢献しようとしている強い姿勢が見えました。

OSSの「オープン」って、ソースコードが公開されていることだけじゃないんですね。異なるツールやベンダー間で相互運用できること、特定のベンダーにロックインされないこと、意思決定やロードマップも含めて透明性を持つこと。それらを含めて「オープンである」ということを、Grafana Labsは相当な思いでもって実践しているのだと感じました。
ここは、今回の説明会のなかでも特にGrafana Labsらしさが出ていた部分だと思います。AI時代のオブザーバビリティを支えるうえで、特定のベンダーだけに閉じないオープンなエコシステムは、ますます重要になっていくのではないでしょうか。
Grafana Labs説明会で私が感じたこと
ここからは、説明会に参加して私が感じたことをまとめてみます。技術的な新機能ももちろん興味深かったのですが、個人的に印象に残ったのは、Grafana Labsという企業が持つ思想や、AI時代におけるオブザーバビリティの立ち位置でした。
OSS文化への熱意と敬意
GrafanaがOSSとして広く使われていることは知っていましたが、Grafana Labs自体がOSS文化に対してかなり強い熱意と敬意を持っている点が印象深かったです。単に「OSSとして提供しています」というだけではなく、OSSを軸にコミュニティを育て、そこから信頼を積み上げてきた企業だということを改めて感じました。
Raj氏の発表では、Grafana Labsのグローバルユーザーの大半は有料顧客ではなく、OSSユーザーやコミュニティのメンバーだということが示されました。このことから、Grafana LabsがまずOSSとして広く使われることを重視し、そのうえでビジネスを展開してきたことが分かります。
収益を先に置くのではなく、開発者やユーザーにとって価値のあるものを作り、愛される技術にしていく。その順番を大事にしているように見えました。
また山口氏の発表でも、OpenTelemetryやPrometheusへの取り組みが紹介され、eBPF関連技術をOpenTelemetryプロジェクトに寄贈しているという話もありました。Grafana LabsがOSSを単に「使う」だけでなく、OSSやオープン標準のエコシステムそのものに貢献しようとしている姿勢が伺えます。
OSS、オープンスタンダード、オープンエコシステム、オープンカルチャー。説明会で語られていた「オープン」という言葉には、単にソースコードを公開する以上の意味が込められているように感じました。
AIありきではなかったOSS戦略
もう1つ印象的だったのは、Grafana LabsのOSS戦略が、AI時代を見越して後から作られたものではなかったという点です。
現在、生成AIやAIエージェントの普及によって、オープンであることの価値があらためて注目されています。AIがどのように判断したのか、どのデータをもとに動いたのか、どのツールと連携しているのか。そうした情報を追えることは、AI時代のシステム運用において非常に重要です。
ただ、Grafana Labsは「AI時代だからOSSを重視している」のではないんですよね。もともとOSSを原点として創業し、オープンなエコシステムを重視してきた企業だからこそ、結果として今、AI時代の流れにうまく乗る形で重なり合ったのだと。ここがとてもユニークだと感じました。
AIが注目されるようになったから急にオープンを掲げたのではなく、もともと大事にしてきたOSSの思想が、AI時代になってさらに意味を持ち始めている。これは、Grafana Labsの強みの1つではないでしょうか。
OSSとAIの摩擦に対する立場
質疑応答では、「生成AIによって大量のプルリクエストが作られ、OSSのメンテナーやレビュアーが疲弊してしまう問題についてどう考えるか」という質問がありました。
これは、AI時代のOSSにとってかなり重要な論点だと感じました。AIを使えばコードを書くスピードは上がるけれど、そのコードが十分にテストされていなかったり、品質が低かったりすれば、レビューする側の負担はむしろ増えてしまいます。便利なはずのAIが、OSSコミュニティに新しい摩擦を生む可能性があるわけです。
この質問に対して、Raj氏は大きく2つの方向性を示していました。
1つは、AIが生み出す問題にAIで対処すること。低品質なコードや未検証のプルリクエストを、AIによって事前にチェックし、フィルタリングするという考え方です。
もう1つは、AIを使う人間の説明責任を明確にすること。コードをAIが書いたとしても、人間が書いたとしても、最終的にその品質に責任を持つのは提出した人間である。この考え方を、コミュニティ全体で共有していく必要がある、という話でした。
この回答は、かなり現実的だと感じます。AIを使うこと自体を否定するのではなく、AIによって生まれる負担や摩擦をどう受け止めるのか。そして、技術的なフィルタリングと、人間の責任の両方で対応しようとしているところに、OSSコミュニティを大切にしている企業らしさが出ていたように思います。
AI時代のOSSは、単に「AIで開発が速くなる」という明るい話だけでは語れません。レビュー、品質保証、信頼、責任……そうした地味だけれど重要な部分にどう向き合うかが、今後ますます問われていくのだと思います。
日本市場の特性を尊重した参入戦略
日本市場への展開で特に印象に残ったのは、Raj氏が「正しい参入の仕方」「正しい投資の仕方」という表現をしていたことです。
日本のIT市場は、商習慣や意思決定プロセス、SIerや戦略的パートナーが大きな役割を持つ点など、海外に比べて独自性が強い市場だと思います。Grafana Labsは、その日本市場の特性を理解したうえで、自社の戦略に組み込もうとしているように見えました。“正しい”という表現、非常に秀逸ですよね。
日本での事業展開において、コミュニティ作り、ダイレクトエンゲージメント、パートナー戦略の3つを柱としていること。そして、世界初のEBCを東京に開設したこと。これらは、日本市場に対してかなり本気で向き合おうとしているサインだと感じます。
海外のSaaS企業が日本に入ってくるとき、単にグローバルで成功したやり方をそのまま持ち込むだけでは、うまくいかない場面も多いはずです。その意味で、Grafana Labsが日本市場の特性を踏まえたうえで「正しい参入方法」を選ぼうとしている点は、とても興味深いものでした。
AIが自律化するほど、オブザーバビリティは“インフラ”になる
今回の説明会を通じて私が一番強く感じたのは、AIが自律化するほどオブザーバビリティの重要性は高まるだろうということです。
これまでのオブザーバビリティは、主にシステムの状態を把握するためのものでした。メトリクスを見て、ログを確認し、トレースを追い、障害の原因を探る。そうした運用のための仕組みです。
しかし、AIエージェントがコードを書き、ツールを呼び出し、判断し、場合によってはシステムに変更を加えるようになると、観測すべき対象はさらに広がります。人間が書いたコードだけでなく、AIが生成した処理。人間が実行した操作だけでなく、AIエージェントが自律的に行った判断。従来のシステム監視だけでは追いきれない領域が増えていきます。
そのとき必要になるのが、「AIが何をしたのか」「なぜそう判断したのか」「どのデータをもとに動いたのか」「その結果、システムにどのような影響が出たのか」を追える仕組みです。
これはもはや、便利な監視ツールというより、AI時代のシステム運用を支えるインフラに近いものだと思います。
Grafana Assistantは、人間の調査や判断を支援するAIです。一方でAI Observabilityは、AIそのものの挙動を観測するための機能です。この両方が必要になるところに、AI時代のオブザーバビリティの難しさと面白さがあります。
AIに任せられる部分は増えていくかもしれないけれど、最終的にシステムの信頼性や品質に責任を持つのは人間です。だからこそ、人間が判断するための材料を残し、追跡し、理解できる形にする必要があります。
そう考えると、オブザーバビリティはAI時代における“最後の砦”であり、同時に、AIを安心して使うための前提インフラになっていくのではないかと感じました。
まとめ|オブザーバビリティはAI時代の“最後の砦”
今回のGrafana Labs説明会で特に印象的だったのは、Grafana LabsがAIを単なる便利機能としてではなく、システム運用や開発体験そのものを変える存在として捉えていたことです。AIを使ってオブザーバビリティを支援する「AI for Observability」と、AIエージェントやLLMそのものを観測する「Observability for AI」。この2つの軸は、今後の開発・運用においてますます重要になっていくのだと思います。
また、説明会全体を通じて、Grafana LabsのOSS文化への強いこだわりも感じました。AI時代だから急にオープンを掲げたのではなく、もともと大切にしてきたOSSやオープン標準への姿勢が、結果としてAI時代の流れと重なっている。その点が、Grafana Labsのユニークさであり、強みでもあるように見えました。
AIエージェントが自律的に動き、コードを書き、ツールを呼び出す時代になるほど、「何が起きたのか」「なぜそう判断したのか」を追える仕組みは欠かせません。そう考えると、オブザーバビリティは単なる監視ツールではなく、AI時代に人間が最終的な判断を行うための“最後の砦”になっていくのではないでしょうか。
ご案内をいただいたときは「私が行って大丈夫なのか……?」という気持ちもありましたが、思い切って参加して本当によかったです。説明会を通じて、Grafana Labsという企業の技術への向き合い方や、AI時代のオブザーバビリティについて考えるきっかけをもらえました。Grafana Labsの皆さま、貴重な機会にご招待いただき、ありがとうございました!
私自身、今回の説明会をきっかけに、エンジニアの仕事でもGrafanaをもう少し活用してみたいと感じています。メトリクスやログ、トレースを可視化するだけでなく、AI時代のシステム運用を支える基盤として、あらためて触ってみたいツールです。
オブザーバビリティやシステム監視に関心がある方は、ぜひGrafanaを試してみてはいかがでしょうか。




