セッション基本情報

「イスラム教って、なぜ今も信仰され続けているのでしょうか?」

そんな問いかけでセッションをスタートさせたのは、荒井さんです。唯一神アッラーを信仰するイスラム教は、日本人にとっては「怖い」「厳しい」というイメージが先行しがちですが、荒井さんはそこに隠れた合理性を紐解いていきました。

まず荒井さんが挙げたのは、女性の服装について。イスラム圏では、女性は全身を覆う過剰なまでの衣服を身にまといます。

一見すると「日よけなら傘でいいのに」と思うかもしれませんが、これは砂漠地帯という過酷な環境が背景にあります。顔立ちや髪の美しさが際立つ女性たちを隠すことで、無用なトラブルを防ぎ、限られた資源の中で社会を安定させるための手段だったのです。

次に取り上げられたのは、豚肉の禁忌。「豚肉はおいしいし、安いし、最高なのに」と前置きしつつも、荒井さんはその裏にある理由を説明しました。

豚は人間と食糧が競合するため、砂漠地帯のような食料が限られた地域では飼育に向かず、穀物資源を守るために禁じられたのだといいます。牛のように草を食べ、人間の食料を奪わない家畜とは違うのです。

さらに、宗教規律を破った際の厳しい罰則についても触れました。イスラム教では国と宗教が一体化しているため、違反に対してはむち打ち刑などの厳罰が科されます。こうして社会全体が統制され、秩序が保たれてきた背景があるのです。

「イスラム教は現代的に見えないかもしれないけれど、実は砂漠という過酷な環境で生き抜くための、きわめて合理的な教えだった」――そう指摘したうえで、荒井さんはさらに次のように語ります。

「宗教とは、確実にターゲットに届き、誰にでもわかりやすく、目的を簡潔に伝えるという点で、究極の“デザイン”です。そう考えると、私たちが信仰している神様という存在は、現代でいうUI/UXデザイナーやグラフィックデザイナー、イラストレーターのようなものかもしれません。新しいものを創造するという行為は、尊くもあり、非常に難しいことだと改めて学びました」

荒井さんは現在、日本の新興宗教の背景を紐解く活動の一環として、日本の伝統工芸品や職人と関わる取り組みも進めているそうです。

宗教を“デザイン”という一味違った視点から捉え直すことで、これまで見過ごしてきた合理性や機能性、そして文化の成り立ちに対する理解が一層深まりました。目に見える形だけでなく、背景に流れる思想や目的にまで目を向けることで、世界の捉え方そのものが少し変わる――そんな学びを得られるセッションでした。

管理人

荒井さんの語った「宗教は究極のデザインである」という意見は、これまでにない斬新な視点であり、まさに目からウロコの気づきでした。イスラム教だけでなく、仏教やキリスト教、日本の神道といった他の宗教についても、その背景を紐解いていくことで、文化のデザインや思考のデザインの理解にまでつながるというのは非常に面白いです。

私たちが当たり前に享受している文化や価値観も、すべてはその環境を生き抜くために磨かれてきた「知恵のデザイン」ということなんですね。